【満期出所者に対する取り組み強化】について
我々、兵庫県自民党保護司の会では、2度にわたり法務大臣に対し多くの要望提言を行って参りました。再犯防止法・再犯防止推進計画が施行され、現在、地方再犯防止推進計画の策定が各自治体に求められております。
この取り組みは、再犯により矯正施設へ2年以内に再入する割合を20%から16%へ減少させることが目的とされていました。しかし保護観察対象者のみが対象であり、目標を達成したとしても全国で約50件、兵庫県内では1~2件の犯罪が減少するのみであることに気づき、満期釈放者に重きを置いた取り組みに変更すべきであるとの指摘を行いました。
当初、満期釈放者は一般人であり、支援等が不可能であるとの見解でありましたが、保護観察対象者に比べ、満期出所者の再犯が非常に多く、再犯を減少させるためには重要なことであるとの理解を示され、方向転換させることに成功しました。具体的には、満期出所者のアフターフォローも保護観察所が担うこととなり、住宅や就業、福祉への支援を求める満期出所者の情報提供を自治体に行うシステムが構築されました。また、全国に先駆け、兵庫県で行われている「コレワーク」(矯正施設内での就業支援)を活用した刑務所見学を含めた事業者への説明会、県内各地のハローワークにコレワークの職員が出向く「出張コレワーク」等、法務省とコラボする兵庫県の取り組みを全国に普及するため、全国に2か所だったコレワークを8か所に増設されました。
以上のことを実施するための「再犯防止推進計画加速化プラン」が犯罪対策閣僚会議で決定されました。
【矯正施設等での広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等のある者に対する処遇】について
平成14年280万件であった我が国の犯罪認知件数は年々減少の傾向にあり、昨年度、70万件と過去最少を記録しました。人口減少にある日本ですが、それだけが要因ではないと考えます。
先天的な脳の障害である広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)は、全児童の5%~6,5%といわれています。少子化の中にありながら、広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)のある児童の認知件数は、平成6年94人から平成30年3,426人へと急増しています。
その要因は、1.同障害への早期発見・早期対応がその症状を緩和するために有効であると社会に周知されたこと。2.児童虐待等、乳幼児期に大きなストレスを受けると脳の一部が萎縮し広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)と類似した特性が出ることが、福井大学の小児科医 友田明美医師の研究でも明らかになったこと等が、大きな要因であると考えます。
急激な犯罪認知件数の減少は、近年、周知が広がった広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等への早期発見・対応の成果であると考えられるのではないか。また、減少しない凶悪犯罪、高い再犯者率については、同障害のあることに気づかず成人した者等への対応が不十分であることが一因であるとも考えます。刑務所や少年院等、矯正施設送致になり、顕著に広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等の特性がある者は、医療刑務所や医療少年院で専門家による処遇を受けていますが、多くの気づかれない者は、障害を考慮されず、一般の収容者と同様の処遇を受けています。
一昨年開催された兵庫県独自の取り組みである「第8回兵庫県再犯防止関係機関連絡会議」において、大阪矯正管区、神戸保護観察所に対し、収容者や保護観察対象者で広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等のある者の割合を尋ねましたが、把握していないとのことでした。すなわち、同障害を考慮しない処遇をしているのが現実であります。また、調査で訪れた加古川刑務所では、令和元年12月31日現在、収容者中での広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)を含む、(精神疾患)指標者の比率は、男子23,3%、女子47,9%であり、全国的にみても同じ状況であるとの報告を受けました。薬物事犯者処遇においても,精神科医による診断,治療の支援体制確保が重要であることから、刑務所への精神科医の配属は近々の課題であること等を提言しました。
山下法務大臣訪問2019、2月 森法務大臣訪問2020、7月
令和2年7月 森法務大臣への要望内容
1. 刑務所・少年院の収容者、保護観察対象者の広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等の有無を確認し、同障害のある者に対しては、障害特性を考慮した処遇を実施すること。
2. 矯正施設・保護観察所の職員を始め、再犯防止、更生保護関係者に対し、広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)等への理解を促す講習等を行い、その処遇方法等の周知に努めること。
3. 広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)を含め精神障害を有する者の処遇を充実させるために,精神科医による診断,治療等の支援体制を整えること。
4. EMDR、条件反射制御法等,脳科学又は精神医学等の最新の治療法や実践に関する研究及び情報収集を行うこと。
☆要望を受け以下の取り組みが法務省において始まりました。
(1)R3.1.1から類型別処遇を改編(「精神障害」類型の下位類型に「発達障害」「知的障害」を新設)。同日から,「アセスメントに基づく保護観察」開始 (アセスメントツール「CFP」の導入)
また、精神科医療との連携,アセスメントの強化についても、今後の取組予定事項である。
(2)矯正施設(少年院)関係では、発達上の課題を有する在院者に対する処遇プログラム実施ガイドラインの変更。
・ 知的障害,発達障害のある少年院在院者に対するコグトレ(認知機能等向上訓練)の実施施設拡大(R3~)
(3)少年矯正・保護の共同事業
・(発達障害を含め)関係機関の重層的な支援を必要とする少年院在院者の処遇及び生活環境調整の充実強化(R3~)現在作成中で3月末までに発出予定です。社会内の医療機関への円滑な移行と連携強化を含みます。
3/30に松本神戸市会議員と共に当内容に対する説明を法務省、保護局において、各担当者より受けてきました。法務省へは、広島少年院で発達に課題のある者に対して実施されている「コグトレ」※作業療法を活用した認知トレーニングを全ての在院者へ実施、退院者の再犯率等を他の少年院と比較し、その効果の検証を行うこと等を提言して参りました。
今年度より1年をかけ、我々が提案し、国により変更された事項についての研修会が各保護区において開催されます。
法務省による再犯防止・更生保護事業のシステムの改革を、地方議会、この兵庫県からの発信で実現できたことは、大きな成果であったと考えています。
兵庫県では、今年の12月に神戸市において、発達障害等のある者に対する処遇方法や障害特性への理解を促す研修会の全国大会開催を予定しています。また、県立こころのケアセンター、県立発達支援センター等では、EMDR等、最新の脳科学に関する研究を始めています。兵庫県が、再犯防止・更生保護事業の先進県として、これからも日本をリードしていけるよう、取り組んでいきたいと考えます。

2021.4.20兵庫県庁にて記者会見を行いました